
1950年8月2日創業の総合工具メーカー、京都機械工具株式会社(以下、KTC)。70年以上に渡って培ってきたKTCならではのノウハウと、洗練された技術が詰め込まれた代表的な商品の一つが「進化し続ける工具、ネプロス」です。
今回は8月1日に発売されるネプロスの最新作9.5sq.ラチェットハンドル「NBR390A」について、開発チームの方々に実際にお話を伺いながら、その魅力と「シンカ」の軌跡を徹底解剖していきます。
「ネプロス」とは
「軽くて、強くて、使いよい」というKTCの社是のもと、「より強い、より使いよい、より美しい」をコンセプトに開発されたハンドツール 、それが「ネプロス(nepros)」シリーズです。
工具づくりの前提となる「安全」「快適」「能率・効率」の3点をふまえ、世界一のハンドツールを目指し、1995年の登場以来、KTCでは常にネプロスを「シンカ」させ続けてきました。
KTCの開発チームによると、「工具のシンカ」は次の4種類に分けられるそうです。
長所や魅力をさらに伸ばす「伸化」
時代やユーザーの変化に適合する「進化」
既存の機能や思想をより深める「深化」
新たな機能などを加えていく「新化」
これら4種類の「シンカ」を一切の妥協なく追求する姿勢が、KTCブランドの真価向上につながっているといえるでしょう。
KTCが目指す世界一のハンドツールは、3つの方向性で「シンカ」を続けてきました。それが「伝達性」「拡張性」「感性」それぞれの向上です。
伝達性とは、ようするにユーザーが自分の手の一部として、どれだけ自在にその工具を使えるかという点です。操作のダイレクト性や出力と感覚にズレを生じさせないための剛性、ガタ防止、バックラッシュ(※)低減、空転トルクの低減、+αの重みを感じさせない軽量化など様々な面にKTCのこだわりが光ります。
※バックラッシュ…カチッという音がしてから、実際に力が入るまでのギャップのこと。
拡張性とは、ユーザーの手の能力を超える能力を工具に発揮させるための工夫を指しています。トルク管理や力のかかり方、人の手が届かないところでも作業できるようにする多関節化・小型化、連続作業を可能にする電動化などです。
また、KTCではユーザーが工具を保有する喜びや買ったときの心の満足感を満たす「感性」の向上も大事にしています。 工具の柄や表面コート、刻印の美しさのほか、使った時の清潔感や清掃のしやすさなど、細部にも一切手を抜きません。
電動化など付加機能をつけた工具が多数出ているなかで、KTCの「ネプロス」シリーズはより本質的な「工具のシンカ」を突き詰めてきた製品といえます。
ネプロスの深化3大ポイント:NBR390からNBR390Aへ
ネプロスの深化3大ポイント
NBR390からNBR390Aへ

今回のネプロス最新作「NBR390A」は、10年の開発期間を経て、前作NBR390をさらに「深化」させたモデルです。
前作NBR390と最新作のNBR390Aを比べてみると、3つの大きな違いに気づきます。
① ヘッドがよりコンパクトに30mm(NBR390)→26mm(NBR390A)

ヘッドのドライブギアをさらに小型化し、無駄な空間が生まれないように精密な設計を施すことで、ヘッドサイズが4mm小さくなりました。横から見ると分かりやすいのですが、ヘッドの形状はラウンド型からよりシャープな形状に変わっており、狭い箇所にもアプローチしやすくなっています。

コンパクトになったからといって強度が劣っていることはありません。最も肉薄になっているヘッド先端部からギアまでの寸法はNBR390と同様で、余分になっていた部分のみ削ぎ落とした設計になっています。
「ヘッドが小さくなった分、全体のバランスは大丈夫なのか?」と気になる人も多いかもしれませんが、その点も心配無用です。KTCの開発チームからは、ネプロスNBR390Aのバランスについて、こんなコメントを頂きました。
「実際に使って頂くと皆さん驚かれるのですが、NBR390とバランスは全く変わっていません。次にお話する軽量化とも関連するのですが、ギアの軽量化やハンドルの肉抜きを行うことで、全体のバランス調整を徹底しました」
② 軽量化
275g(NBR390)→245g(NBR390A)
② 軽量化:275g(NBR390)→245g(NBR390A)
NBR390Aが前作から深化した点として、ドライブギアの軽量化も大きな特徴として挙げられます。ドライブギアの外径は24.5mm(NBR390)から21.4mm(NBR390A)へと小型化。さらにドライブギアを解析し、ギア部の贅肉を削ぎ落とすために溝を設けることで、さらなる軽量化に成功しました。
また、ハンドル部についても、一体成型にしか見えない外観ながら、内部を肉抜きすることで絶妙な重量バランスを維持しています。
このように、見えない部分にまでこだわった作りだからこそ、手に取った時に驚くほどバランスに優れた工具が出来上がるのです。
KTCの開発チームの皆さんは、開発時を振り返りながら、次のように述べられました。
「NBR390と同等の加工を行った後、さらに細いドリルで深く肉抜きをするなど、NBR390Aの完成までには非常に難度が高い加工に挑戦する必要がありました。解析の技術が進化したおかげで、余計な贅肉をそぎ落としながら、全体のバランスを保つ絶妙な設計ができたと思います」

③ 内部構造の刷新
NBR390Aは、NBR390と比べて内部構造も大幅に改善を加えています。NBR390Aではレバーとチェンジャーを一体型にしたことで、軽量化はもちろんのこと、必要な部品数が減ったことで、設計の自由度が高くなりました。レバーにスプリングピンを入れる構造を採用したことで、ねじのゆるみによるレバー外れのリスクも防げるようになりました。

また、従来品採用の7段クロウを精密8段クロウに変更したことで、歯の噛み合いや空転時の離脱・接地の動作も改良されています。NBR390ではクロウの動きが斜めになるため、1歯に負担がかかりやすく、歯の摩耗に偏りが出てしまうという課題がありました。
一方、NBR390Aでは、平行に離脱できる仕組みを採用したことで、その課題を解決。全ての歯が一瞬で噛み合い、かつ空転時にはギア同士が当たらないため、摩耗しにくくなりました。ヘッドがコンパクトになっても、十分なギア強度を確保できているわけです。
NBR390Aは8歯が同時に噛み合うため、カチっという音が従来品よりもやや大きく響きます。また、全体的に小型化したことにより、音の響きも高めです。
低価格帯のラチェットハンドルほど、歯の噛合をバネの強さで調整している製品が多いため「カチッという音が大きく響く商品=安価」という印象を持たれがちですが、NBR390Aの音は不快感を受けるような印象ではありませんでした。
また、初動の滑らかさもNBR390ほどの感動はありませんでした。しかし、90枚ギアに精密8段クロウがしっかりとかかっている安心感は大幅に増しています。実際に使用する環境でソケットを装着していただくと、音や動きの差は気にならないレベルです。それ以上に、しっかりトルクをかけられる”使いよさ”に、深化を感じて頂けると思います。
NBR390A開発の経緯
90枚ギア搭載ラチェットハンドルの
「深化」を目指して
NBR390A開発の経緯:90枚ギア搭載ラチェットハンドルの「深化」を目指して
上記で挙がった3大深化ポイントの他にも
親指がかかりやすくなり、切り替えを楽にできるレバー形状の変更
アプローチをさらに容易にするためのレバー周りの切削加工
より浅いプッシュでソケットの着脱ができるプッシュピン形状
など工夫がもりだくさんのNBR30Aですが、開発までには並々ならぬ苦労があったといいます。
「NBR390Aの前身となるNBR390は、小判型ヘッドとしては当時、世界最多の90枚ギアを採用したラチェットハンドルでした。90枚ギアを搭載したNBR390は当時から非常に課題が多く、構造の変更をしては思うように動作しない点を改良する、というプロセスを何度も繰り返してようやく完成したものでした。
NBR390の「深化」形を目指すにあたり、私たちはヘッドの大きさや重量の部分をより改良していくべきだと考えました。とはいえ、試作を続ける中で、まるで使い物にならない製品ができてしまうといった大失敗もありました。どうしても二次元CADのデータだけではわからない部分も解析と計算を重ね、内部空間にも一切の無駄がない「動き」に感動してもらえるラチェットハンドルを目指しました。
とにかく課題を見つけるたびに対応策を考えて、改良を続けて10年。ようやくネプロスを愛してくださるユーザーの皆様にNBR390Aをお届けできるようになりました。
NBR390Aは、NBR390の後継として、これ以上のものはないと断言できる自信作に仕上がったと自負しています。
これからも私たちKTCは、ユーザーの皆様が求めるものは何なのか、そしてどうすれば気持ちよく使ってもらえるかを考えながら、さらなる挑戦を続けていきたいと思います」
NBR390Aのハンドルと外箱に輝く「90+」のマーク、そしてヘッドに刻まれた「SUPERIOR NINETY GEAR KTC」(SUPERIOR=より優れた)の文言からも、NBR390Aに込められた開発チームの思いが伝わってきます。
一足早くNBR390Aを使ってみた!
エヒメマシン社内のレビュー
一足早くNBR390Aを使ってみた!エヒメマシン社内のレビュー

NBR390Aの正式発売は2022年8月1日からですが、エヒメマシンでは一般販売に先駆けて、その使い心地をテストさせてもらいました。
これまで「ネプロスといえばNBR390」というイメージがあったため、最初はフォルムの違いや一回り小さくなったNBR390Aにやや戸惑いを覚えました。が、使ってみると、サイズが小さくなったことを全く感じさせないバランスの絶妙さがすぐに伝わります。
手にとって見ると明らかに軽く、レバーを動かすときもスムーズです。切り替えのストレスを一切感じさせない仕上がりは、「さすがネプロスの最新型」と思わずうなってしまうほど。
確かにNBR390と比べると、カチッという音がやや高めで大きく感じられるので、使い始めは慣れないという方もいるかもしれませんが、何度か使い続けていくと「NBR390よりも確かに深化している」と実感できるはずです。
エヒメマシン社内でも、最初は「NBR390の方がよかったのでは?」という声が実はちらほら上がっていたのですが、使い続けていくうちに「NBR390Aの方がいい!」」という声が圧倒的になりました。
しっかりとしたギアのかかり方、安定のバランスなどNBR390のよさをそのまま引き継ぎ、かつ小型化・軽量化を果たしたネプロス最新作の「NBR390A」。
従来のネプロスファンはもちろんのこと、これからラチェットハンドルの購入を考えている方にはマストバイの一品といえるでしょう。
KTCのネプロスシリーズの
「シンカ」に思いを馳せて
KTCのネプロスシリーズの「シンカ」に思いを馳せて
NBR390の良さをそのままに、さらに小型化・軽量化を果たしたNBR390A。精密8段クロウを採用したことで、歯の組み合わせが改善され、耐久性は従来品以上を誇ります。
細部まで妥協のない緻密な設計のよさは、やはり実際に手にとって使ってみないとわからないもの。「世界一のハンドツール」を目指すKTCのネプロスシリーズ、最新作の使い心地をぜひその手で試してみてくださいね。
エヒメマシン本店でもいよいよ、8月1日より取り扱い開始です!

商品ページ
NEPROS 9.5sq. ラチェットハンドル NBR390A
より軽く、より小さく、そしてより使いやすく深化したネプロス9.5sq.ラチェットハンドル「NBR390A」が新登場! 従来品であるNBR390のヘッド幅30mmから26mmへとシェイプアップ。 ギア枚数90枚は維持しつつ、チェンジャーの一体化及びギア部のぜい肉をそぎ落としたことで、ヘッド部だけで14gの重量を削減。 従来品採用の7段クロウは精密8段クロウへと深化。クロウにかかる力をより分散させたことに加え、クロウ部分に接する肉厚はしっかりと確保しているため、小型化しても変わらない強度を実現…
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