意外と奥が深い「鍛造と鋳造」の基本

タマダでございます。意外と奥が深いシリーズ第9回は"鍛造(たんぞう)"と"鋳造(ちゅうぞう)"の違いを取り上げさせていただきます。

工具そのものではなく、金属の加工方法になるので、聞き慣れない方もいらっしゃるかと思います。2つの違いを明確にすると同時に、双方の技術についてタマダなりに解説していきたいと思います。

鋼(はがね)について

いわゆる鉄とは、道具や機械の部品まで幅広い分野で当たり前のように使われている、ヒトにとって最も馴染み深い金属。しかしながら、実は純粋な鉄(元素記号/Fe)は意外なことに自然界には存在せず、酸化鉄として鉄鉱石の中に含まれています。

その鉄鉱石を製錬したものが鉄で、炭素が2〜3%程度が混ざっているため、硬いながらも脆くハンドツールはじめ各種工業製品の材料には適していません。それゆえ、含有炭素量を減らしつつ用途や必要に応じた他元素をエッセンスして再製錬します。

その結果、鉄よりも強度と靭性、加工製に優れた合金である鋼(はがね)となるのです。つまりは鋼鉄、スチール、ですね。

工具鋼について

金属もしくは非金属の切削、塑性加工用などの各種治具や工具に用いられる鋼として、JIS(日本の産業製品に関する規格や測定法などを定めた日本独自の国家規格)に工具鋼が規定されています。

化学成分や性能を考慮して、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼に分類される他、工具鋼メーカーではJIS規格外の痩躯工夫を凝らした工具鋼=ブランド鋼の開発にも取り組んでいます。このあたり、モノづくり日本の進取の姿勢と矜持を大いに感じさせます。

製法の違い

鍛造は、金属をたたく(鍛える)ことによって成型する加工法であり、鋳造は金属を溶かしてドロドロの液体にして型に流し込む加工法をいいます。

この2つの加工法の大きな違いは「強度」です。

鍛造はたたく過程で金属の結晶を整えて気泡などを圧着させるため、粘り強さが生まれます。

一方、鋳造は内部に気泡が生じた場合に強度が下がったり、厚みが異なる部分を冷やした際に応力(物体内部に生じる力)による内圧が強度を下げたりするので、高度な技術力が求められます。

鍛造は強度面と軽量性に優れるものの、大量生産には向かずコストがかかり高額となりがち。鋳造は複雑な形状でも加工ができる上に、大量生産が可能なので比較的安価となるのがいかにも魅力的です。

それでは具体的に鍛造・鋳造という2つの加工法を調べてみましょう。

鍛造製法とは

鍛造技術は、紀元前4000年以上前に生まれた加工法です。

紀元前といえば、エジプトやメソポタミアの古代遺跡から発掘された礼拝・祭事用の装飾品と武器や、斧、鍬(くわ)、鋤(すき)といった食糧自給用の生活必需道具を連想する方も多いはず。ツタンカーメンの黄金のマスクが紀元前の鍛造技術の傑作とも聞けば、驚くばかりですね。

日本でみつかった最も古い金属加工品は、縄文時代晩期(紀元前3~4世紀)のモノらしく、この道具が誕生した時期は、稲作が始まった時期と重なっているといわれています。つまり、稲作という農業ノウハウと道具の金属加工技術は、多分に大陸からセットで伝来されたのでしょう。

その後、農具はもちろん装飾品はもちろん、日本刀や鉄砲づくりに活用されていったのはご存じの通りです。とりわけ、平安時代に端を発する「古刀」と呼ばれる日本刀の製造技術は、現代でも通用するほど精緻かつ高貴であり、「鍛冶」というコトバじたいに何かしら風情を感じてしまいます。

熱間鍛造と冷間鍛造

高温で加熱した金属は柔らかくなると結晶が正常な形に整いつつ変化します。この状態を再結晶といい、再結晶した金属は加工しやすく、柔らかい状態のまま鍛造することを「熱間鍛造」、再結晶する温度以下の常温で成形することを「冷間鍛造」といいます。

熱間鍛造は、加熱されて柔らかくなった金属を加工するため、自由自在に製造することが可能であり、かつ何度も叩くことで、金属内部の結晶粒が細かくなり、ムラがなく、均質に仕上げることができます。

一方、冷間鍛造は表面がキレイに仕上がるという特徴があるため、寸法や形状の精度を高めることができます。しかし、常温に近い状態の金属は固く、加工もそれなりに難しいため、叩き過ぎると割れや亀裂が生じる可能性もあります。

鋳造製法とは

鋳造技術は、鋳型(いがた)と呼ばれる型に溶かした鉄を流し込んで成形する技術であり、誕生は紀元前3600年頃と推定され、鍛造よりもかなり遅れて誕生した模様。

熱でドロドロに溶かした鉄などの金属をあらかじめ作製しておいた鋳型に流し込み、冷やして固める。一度鋳型を作ってしまえば、同じサイズや形の製品を大量生産することが可能で、鋳鉄、鋳鋼、銅合金、チタン合金、アルミニウム合金といった各金属の特性を活かすことで、現在では強度や見た目が優れた鋳物が生まれています。

耐食性や耐熱性あるいは軽量製に優れるなどなど、それら金属特有の性質を活かした部品・製品が次々に生み出されているのです。自動車用部品、鉄道車輪用部品のブレーキ、エンジン周りの部品など、高温になりやすい部分にも頻繁に用いられていると聞けば、思わず驚きますね。

もちろん、複雑なデザイン(機構)をもつハンドツールにも高等応用されています。元々、鋳造には薄い製品やデザイン性の高い製品の製造には不向きであるというデメリットが存在しました。しかし、今日では「消失模型鋳造法」や「ロストワックス精密鋳造法」の開発により、薄い製品やデザイン性の高い製品の製造も可能になりました。それら高度な技術を元手に、鋳造製法は製造過程で生じがちなひけ巣や割れ、亀裂などといった不具合を解消していくに違いありません。

機械工具では圧倒的に鍛造製法が主

このように鋳造と鍛造には各々に異なるメリットがあり、製造する製品の特長や使用目的によって使い分けることができます。

機械工具の場合は大多数が鍛造製法。これは強度と靭性に重きが置かれた結果で、確実に締める・緩める・咥える・曲げる・切るだけでなく、安全性まで求めた結果といえるでしょう。とはいえ、日進月歩の勢いで開発が進む鋳造技術の躍進ぶりを知るほどに、いずれ機械工具業界に革命を起こす可能性も感じます。

ここからは個人的な推測です。いわゆる鉄の融点(個体が液体になり始める温度)が1538℃、金銀銅が1000℃前後、鉛が327.5℃。そして、ライターの温度は800℃〜1000℃、焚き火で1000℃くらいが数時間続く程度です。鋳造製法の発見と活用法が遅れたのは、雑多に混ざった天然金属の成り立ち具合と、火力の問題も影響したのではないかと思います。

そういえば、子供の頃にそのあたりの手頃な石を地面に叩き割ったり擦り付けたりして、斧みたいなモノを作った記憶があります。誤解を恐れずに書けば、鍛造製法とはやや原始的で、だからこそシンプルなのかも知れません。

しばしば混同される鋳造と鍛造。全くの別物だということが、おわかりいただけたのではないでしょうか。各製法の特長を知ったことで、機械工具だけでなく、身近な金属製品がどのような方法で製造されているのか、少し興味が湧いてきませんか?

映画やドラマで刀鍛冶や鉄砲鍛冶が躍動する姿を観たり、仏像や釣鐘、釜を見かける度に、慕情を馳せるロマンチストになってみるのも粋なものです(タマダ的には、鍛造といえばエヒメマシンが販売しているハンドツール、鋳造といえば金のインゴットです)

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