今回はドイツ製工具メーカー「スタビレー」の魅力を探るべく、ユーザーでもあるマクラーレン東京様（以下、敬称略）に取材をさせていただきました。ショールームとテクニカルセンターの見学後には、センター長の副島様からブランドに対する考え方や、工具を選ばれる際に何を重視しているかについても伺いました。
マクラーレン東京とは
マクラーレン・オートモーティブは2010年から市販車部門を立ち上げ、マクラーレン東京は2011年に販売を開始し、2019年には世界販売台数2位を獲得した老舗の正規リテーラーとなります。
そういった中で、都内に運営母体を構えるマクラーレン東京は、赤坂・有明にショールームを構えています。
そして、今回取材させていただいた、有明のマクラーレン東京テクニカルセンターは2016年7月にオープン、2019年10月に世界初の認定中古車販売店としてマクラーレンクオリファイド東京が併設されました。
工場のイメージを一掃するテクニカルセンター
テクニカルセンターは1階のショールーム奥の扉と直結していました。
自然光が差し込む室内は、これまでの工場のイメージを一掃するこだわりが詰まっていました。壁が白いだけではなく、ライトグレーに塗装された床もその一つ。汚れが目立ちやすい工場において、選ばれることがめずらしい明るい配色。構造面においても、極限まで減らされた柱や、床をフラットにするために埋め込まれた特注のリフトと排気ガスダクト。
そして、圧巻のシステムキャビネットは、サイズに合わせた建築設計を行うことで、既存の建物では取り入れづらい収納兼ワークスペースが見事に生み出されていました。
センター内はオーナーが訪問された際に立ち寄られる場所でもあります。そのため、美しく機能的であることも重要と話されていました。それが、安心や信用につながると同時に、マクラーレン東京品質の価値を感じてくださる役目も果たしているとのこと。「売るものに対して我々でも価値を作り出している」と話されていた言葉は、工場内を見渡しただけでも説得力がありました。
そして、「1台1台を見ると、お客様の顔が浮かぶ」ともおっしゃっていました。もちろん、マクラーレンは、塗装やカスタマイズも多彩でオーナーのこだわりも強く個性的ということもあります。しかし、それ以上にひとりひとりのお客様と紳士に向き合い、その期待に恥じないサービスを提供するという誠実さがヒシヒシと伝わってくるのです。
この話の延長線上で工具の話題にもなり、「海外志向のオーナー様も多いことから、スタビレーをはじめとした、”海外ブランドの高級な工具を使っていること”へ価値をも感じていただけると思います」ともおっしゃっていました。
自分の愛車がどのような環境で、誰に、どのような工具で整備されているのか。確かに、大切なものだからこそ、人に預ける際の信用度がより重要になってくるものだと思います。
こちらで働く整備スタッフは、高級外車ディーラーの整備経験を持つ方も多いそうです。また、近年では経験者ではなく新卒採用と教育にも力を入れられているとのこと。
また、スタッフが使用する工具は会社から支給されるものだけではなく、自分の手に馴染むアイテムを探し、長い年月をかけ個人でも買い揃えているということでした。普段からスタビレー製品を使われている整備士さんにお話を伺うと、「小さいサイズのコンビネーションレンチはスタビレーを揃えて行ったのですが、大きくなってくるとコストも高くなるためここまでになりました」ということでした。高品質な工具は、お財布事情との相談もつきまといます。これは、工具にこだわる多くの人にとって共感できるのではないでしょうか。
ご案内いただく中で、センター長の副島様が何度も「整理整頓」という言葉を使われていたのがとても印象的でした。このシンプルな言葉には、「工場としての機能性・お客様の安心や信用・スタッフが高い意識と集中力を保つ」といった深い想いが込められていたのですね。
このようなこだわり尽くされた現場で支持をされているスタビレーの魅力とは何か。次の章からは、工具に関しての話題を深く掘り下げていきます。
テクニカルセンター長インタビュー
副島 倫実（Soejima Tomomi）様
1992年にテクニシャンとしてコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドに入社。日本総輸入元であった、ロールスロイス＆ベントレー、フェラーリ・マセラティ4ブランドの整備に携わる。社内でのブランド分けと共に、フェラーリ及びマセラティ―のチームにてトラブルシュートを多く経験。
2011年。マセラティが日本での輸入元としての設立に伴い、マセラティ―ジャパンからのオファーにより入社。テクニカルマネージャーとして、国内ディーラーへの技術サポート等を中心に、日本においての立ち上げ時のアフターセールス全般に従事。
2016年。マクラーレン東京テクニカルセンターのオープンを設立に伴い、マクラーレン東京からのオファーによりに入社。現在アフターセールスのテクニカルセンターマネージャー業務に従事している。
硬く実質剛健なドイツ製工具
副島様「約30年前、整備士になりたてのころ触っていた海外の高級車は、足回り下回りが機関車か？というほど締め付けが固かったです。そして、インチねじなのでピッチも細かく、錆びて固着することでさらに緩めづらくなります。最近の国内事情はわからないため今では違うかもしれませんが、過去に日本メーカーの工具を使った際は、材質がやわらかく、固着したボルトを緩める前にボルトの頭を潰しやすかったという印象があります。頭が潰れたボルトを外すには、長い時間を要します。当時は海外製の工具は固い印象があり、ボルトの頭を潰す前に割れると言うのが特徴的でした。長年の経験から、”ボルトがなめるくらいなら、工具が割れる方が効率良い、工具は幾らでも替えが効く”という考えに至りました。」
その当時に選ばれ、今でも評価されているのが、ドイツ製の実質剛健な工具メーカーのスタビレーです。
アイデアを実現できる工具
副島様が「手では出来ない・届かない作業をするための道具が工具です。特殊な工具をひとつ使うことで、エンジンを下さずに作業を進めることができることもある。」と話されていたように、整備スタッフがアイデアを思いつき、そのアイデアを特定の工具を使うことで実現できた場合、通常4時間掛かるような作業が30分で終わることもあるそうです。
逆に、「これができれば30分で終わるのに」と思いながら、そのアイデアを実行できない工具を4時間使い続けることはストレス以外の何ものでもありません。作業ストレスをどれだけ改善できるかも、工具を選ぶ際の指標になるということでした。例えば、変わった形状をしているスタビレーのスペシャルエキステンションバーを使うと、特定の車種、特定の作業において抜群の力を発揮したという実体験を聞かせていただきました。
使用頻度が高い工具だけではなく、頻度が低かったとしても、その一度の作業で大きな効果を発揮する製品に対しては、非常に評価をされているようでした。
スタビレーのトルクレンチが良い理由
マクラーレン東京ではホイールの最終締め付け検査専用ツールとして、スタビレーのトルクレンチを使用されています。
ドライバーだったらこのメーカー、プライヤーだったらこのメーカーという、適材適所は存在するというお話も伺いました。そういった中で、トルクレンチに関しては特段、スタビレーが良いというご感想でした。
例えばトルクをかける際、締まる直前まではストロークを大きく振りがちです。すると、他のメーカーではストローク中に感覚ではターゲットトルクに達していると思っているのに「カチッ」という音が鳴らないことも。初心者であれば締め過ぎに気づかないままオーバートルクになってしまいますし、締め過ぎであることに気付ける経験者だったとしても緩めて締め直すという無駄な作業が発生してしまいます。これでは本末転倒です。
その点、スタビレーのトルクレンチはしっかりとクリック音が鳴ります。しかも、カチッではなく「ガキッ」と鳴ることも気に入っている点の1つとのこと。
ホイールボルトの締め付けは最重要コンポーネントでもあるため、その品質管理とトルク値を保持できることが使われる理由でもあります。
「整備の痕跡を残さない」とは
整備後の状態を見て、高級な工具と安い工具では、当てた痕跡の違いがひと目でわかるそうです。安い工具だと、ボルトやナットについた傷や跡がどうしても残ってしまうとのこと。
そして、高級外車ではタイヤのボルトなど目に付く部分にはメッキ塗装が使われていることも多いため、インパクトレンチのような傷がつきやすい工具も使わない徹底ぶりでした。
「我々はプロとして整備の痕跡を残さず仕上げる事へのプライドを持っています。」と話されていた言葉の重みを感じずにはいられません。
作業効率を考えて使いたくなる工具があったとしても、作業効率がブランド価値より優先されることはありません。プロの仕事に見合った道具を選ぶことも大切。そして、マクラーレン東京のテクニシャンに選ばれたのがスタビレーなのです。
マクラーレン東京×スタビレー
今回はマクラーレン東京と、そこで使われているスタビレーや工具にまつわる話を紹介させていただきました。
インタビューで「人が作ったもの、職人さんが作ったものは好き」と話されている副島様の表情にも、惹かれるものがありました。そこからは、ものづくりに携わる人たちへの敬意だけでなく、ご自身がマクラーレンで大切にされている想いが国内外のクラフトマン全員が持つ共通の想いなのだと、原稿をまとめながら一言一言の重さを改めて感じている次第です。
そして、本文で「適材適所」という言葉も出てきましたが、全てを最高級の工具で揃える必要はありません。自分に課せられている使命を果たすために何をするべきか。それは、働く会社、環境、立場によって全く違います。そして、それに伴い適正な工具も変わってきます。そういった中で、マクラーレン東京様の理念とスタビレーの剛健さ・高級感・機能性は、相性がぴったりだったと実感できる取材となりました。