ロブスター、エビ印の愛称で親しまれてれている株式会社ロブテックス。創業130年以上経つその長い歴史は、バリカンを世に送り出すところから始まりました。
今回の記事は、鳥取ロブスターツール株式会社様(以下、敬称略)を取材させていただいた際のレポートとなります。現地では、国産初のモンキーレンチ(メーカー正式商品名:モンキレンチ)を開発されたエピソードから、工具全般を製造販売し国内有数のブランドに発展された経緯まで、詳しく伺って参りました。
また、取材に際して展示スペースや工場内の撮影許可もご快諾いただきました。写真もたくさん載せているため、見学気分で是非ご一読ください。
原点は理髪用バリカンとモンキーレンチ
株式会社ロブテックスは1888年(明治21年)創業の老舗工具メーカーです。ロブテックスが会社名、ロブスターがブランド名になります。真っ赤なエビのロゴが象徴的で、ユーザーからは親しみを込めて、エビ印やエビさんと呼ばれています。
ブランド名の由来は、「エビのように腰が曲がるまで使える丈夫な工具」です。その由来通りとなる、丈夫な商品の製造工程に関しては後ほど説明するとして、先ずは会社の沿革からご紹介いたしましょう。
遡ること130年以上。創業者の伊藤兼吉さんが、国産初の両手バリカンを発明されたことが始まりとなります。明治元年に生まれた兼吉さんは、大政奉還直後の動乱で「ざんぎり頭を叩いてみれば、文明開化の音がする」という言葉が流行った時代に育ちました。「ちょんまげ禁止令」が発令され、人々が髪型の処理に困っていた時代でもあります。そして、当時の両手バリカンと云えば、高価な輸入品。その状況を見た兼吉さんは、「国産でコストパフォーマンスに優れた商品を提供したい」という想いを抱かれます。そして、フランス製馬毛刈器をヒントに苦心の末、開発に成功。完成した商品は瞬く間に大評判となり、生産が間に合わないほどでした。
その後、時代と共に変わりゆく輸出入の荒波を乗り越えながら、兼吉さんは創業40年目にしてついに、モンキーレンチの製造販売化を実現します。この商品から「エビ印」のロゴマークが付くようになり、総合工具メーカーへの第1歩を踏み出しました。今でこそ様々なブランドからモンキーレンチが販売されていますが、モンキーレンチと云えばロブスター。そして、Mシリーズは発売以来90年以上のロングセラーモデルとして、現在もなお国内産業の礎を築いています。
その後、作業工具、省力工具、ダイヤモンド工具、電設油圧工具や配管工具に至るまで次々と製造販売。品質とラインナップの幅広さを兼ね備えた、総合工具メーカーにまで発展されました。
ハンマーマンの鍛造技術
ロブスターの信頼性を裏付けるものとして「鍛造技術」が挙げられます。鍛造とは、金属製の材料を熱し、ハンマーなどの治具で叩き、製品の形に近づける作業のことです。ハンマーで打ち込むことにより、金属組織の繊維が密となり、鍛流線(メタルフロー)が生まれます。そして、部品形状に沿ってこの鍛流線が流れることにより、反復曲げ応力に強く、軽量化にもつながるといった特徴が生まれます。その特徴から、自動車や航空機のパーツ、包丁に代表される刃物にも用いられている製法です。映画のワンシーンでも登場する、日本刀を叩く工程と言えばイメージが湧きやすいかもしれません。
この鍛造製法は、ドロドロに溶かして金型に流し込む鋳造製法と比べると、大量生産には向きません。なぜなら、強度や硬さ、軽量性に優れている反面、部品形状や寸法・仕様に応じた金型を用意しなければならないだけではなく、「鍛えて造る」ための高い技術力を要するためです。近年は鋳造技術も進化してきたとはいえ、まだまだ鍛造製品の丈夫さ・安全性には届きません。
また、一概に鍛造製法と云えど、使用する材料と、金属を打ち込む職人(ハンマーマン)の力量によって、品質に大きな差が出ます。鍛造技能士という国家資格があるのですが、鳥取ロブスターツールには、一級鍛造技能士が3名、二級鍛造技能士6名が在籍中です(2022年4月時点)。材料をハシで掴み、フットペダルで巧みにハンマーを操つる動作。金型ごとに決められた回数を叩くわけではなく、温度を見極め、強弱をつけ、リズム良く鍛えていかなければ、美しい鍛流線は形成されません。
繊細な手足の動きによって繰り出される、熟練の技。鳥取ロブスターツールでは、優秀なハンマーマンたちが日々活躍されています。
生産から出荷までを担うロブスターのハブ
『鳥取ロブスターツール株式会社』
鳥取ロブスターツール株式会社は、鳥取県および西伯郡名和町(現:大山町)の誘致に応じて、日本理器株式会社八尾工場の鍛造部門を分社、独立移管されました。若手の確保や育成を目指し、地域に根付いた会社として重要な役割を果たしています。
また、生産から出荷までを担う”ロブスターのハブ”としてもフル稼働しており、生産・製造技術だけでなく、管理・出荷のシステム化にも着手。品質管理における3大要素「QCD(Quality=品質・Cost=コスト・Delivery=納期」を超えた「SQCDM」(QCDにSefety=安全性とMoral=モラルを加えた用語)を実現しています。
そして、メンテナンスセンターが、製造工程、組み立て検査場に隣接する形で完備されています。ここはお客様の声が直接届く場でもあり、壊れ方を分析することで問題点・改善点などが見えてくる場でもあります。製造現場と隣接していることによって、お客様の声や修理で得られる知見が、シームレスにフィードバックされることも品質向上につながっています。
出荷場も同様に効率化や工夫が凝らされていました。徹底的に整理整頓された作業場と従業員さんの表情からは、ミスを減らそうという努力だけでなく、商品を大切に扱う姿勢も伝わってきました。また、在庫管理からピックアップ、出荷に至るまで、多くの工程でシステム化されており、流れるように作業が進む様は、ECサイトを運営する弊社にとっても非常に勉強になる光景でした。
また、不良品に対しての取り組みも素晴らしいものでした。数ある製造工程の中で、不良品になってしまった商品を”発生した工程ごと”に並べて管理する方法を導入。どの工程で多くの不良品が発生しているのか、ひと目でわかるようにしたことで、各担当者も「自分のところでは不良品を出さない」という意識改革が生まれたということです。その結果、廃棄量が約1/10にまで減ったというお話には驚きました。
【社是】繁栄は和にあり 信用は誠実にある
株式会社ロブテックスの地引代表取締役社長が話されていた「製品ではなく商品」という言葉からは、常にお客様視点で物事を考えられている姿勢を感じられました。
「日本の工具メーカーが日本で生き残るための手段」として、お客様視点を徹底的に追求すること。そこから見えてくる需要に対して商品開発を行い、各所から集まるお客様の声に耳を傾け未来に活かしていく。130年以上もの間、これらを実直に続けて来られたからこそ、絶大な信頼感がロブスターブランドにあるのではないでしょうか。
時は明治21年。日本標準時(JST)が初めて施行され、国際化が加速していく時代の中で、大きな1歩を踏み出した1人の男性。「国産でコストパフォーマンスに優れた商品を提供したい」との想いと、その男性が持つ誠実さは、令和の時代にも色褪せることなく受け継がれています。
会社概要
株式会社ロブテックス
〒579-8053 大阪府東大阪市四条町12-8
鳥取ロブスターツール株式会社
〒689-3224 鳥取県西伯郡大山町高田1213-1
公式HP:https://www.lobtex.co.jp
LOBSTER(ロブスター)
東大阪市に本社を置く株式会社ロブテックスのリーディングブランド。レンチやニッパーなど金属工具を中心に製造・販売している。理髪用バリカンの製造からスタートした同社はモンキレンチの製造をきっかけに工具業界へ進出。作業工具や省力工具、ダイヤモンド工具、配管工具ーーなどなど、あらゆる工具を提供するようになる。モンキレンチを作り続けて90年以上の老舗ナショナルブランドとして、プロのニーズにこたえる高品質のMade in Japan ブランドのひとつとなっている。
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