これから夏が近づくにつれて、気になるのが車のエアコンの効き具合です。約1年ぶりにエアコンをつけてみたら、使いたい時に限って故障していた、なんて事態は避けたいですよね。
エアコンの効きが悪いときは整備工場に相談するのが一番確実です。とはいえ、もしエアコンガスを補充するだけですむなら、自分でDIYしてみたいという人も多いでしょう。
「カーエアコンの効きが悪い時、どういう原因が考えられるんだろう?」
「そもそも、エアコンガスの補充を自分でやっても大丈夫なの?」
といった疑問にお答えすべく、カーエアコンのメンテナンスに関する知識をまとめました。
あらゆる「漏れ」を解決するプロ、リークラボ・ジャパンの方にインタビューした内容も合わせてお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
そもそもカーエアコンの仕組みって?
車のエアコンが効きづらいというのは、そもそもカーエアコンのどの箇所に問題が生じているのでしょうか。 カーエアコンの仕組みの図解をクルマの『いま』がわかる自動車ニュースメディア「クリッカー」より引用させて頂きました。
カーエアコンの原理は、気化熱です。エアコンガスが密閉された回路をぐるぐると循環しながら、気化するときに熱を奪う仕組みを半永久的にくりかえすことで、冷たい風を常にファンで車内に送り込んでいるわけです。
このエアコンガスの気化をくりかえし行う仕組みに欠かせないのが、エンジンからのベルト駆動で動くコンプレッサーです。コンプレッサーは、室内機(エバポレータ)で気化したガスを圧縮し、高温高圧で半液体状のガスに変えて、室外機(コンデンサー)に送り込みます。そして、コンデンサーで放熱した後、また室内機に戻ってきたエアコンガスが気化し、ふたたび周囲の熱を奪うというサイクルを繰り返します。
カーエアコンの効きが悪いと、つい「エアコンガスが漏れているのかも」と思いがちですが、実はコンプレッサーの不調やエアコンオイルの不足なども原因として考えられます。
カーエアコンの状態をきちんと把握して対処するためには、原因を多角的に調べる必要があるのです。
冷房が効かない主要原因3パターンと対策法
先述した通り、車のエアコンの効きが悪い理由は、多角的に見ないと判断できません。とはいえ、素人判断では全ての原因をチェックすることは難しいでしょう。
カーエアコンの冷房が効かない時の主要原因として、以下が挙げられます。
●故障によるガス漏れ
●エアコンガスの汚れ
●コンプレッサーの不具合
●エアコンガスが大きく減少する
故障によるガス漏れ
通常使用していても、ガスは少量ずつ漏れます。それは、接続部分(配管と配管の接続部など)や、コンプレッサ、ホース自体などからです。
なぜ漏れが起きるのかというと、運転中の振動や経年劣化、飛び石による配管の損傷が生じるからです。
もしアルミ管やゴムホースに不具合があると、いくらエアコンガスを補充してもすぐにガス量が減ってしまいます。亀裂の度合いによっても対処が異なりますが、パーツ交換などの対策が必要です。
ガス漏れを放置しておくとコンプレッサーの故障にもつながるため、出来る限り迅速に修理を行いましょう。
エアコンガスの汚れ
エアコンガスは吸湿性があるため、何年も使っていると水分や不純物が混入し、エアコン本来の性能を妨げてしまうことがあります。
水分や不純物が入ってしまったエアコンガスは、クリーニングをしない限り、元の綺麗な状態には戻りません。
エアコンガスのクリーニングは、以下の3ステップで行われます。
- 既に入っているエアコンガスを、専用機器で全て抜き取る
- 回収したエアコンガス内の水分や不純物を取り除く
- 抜けた分のオイルを新しく補充し、決められた量のガスを入れる
専用の機器が必要なため、一般家庭ではまずクリーニングには対応できません。車の整備工場で車検の時に合わせて頼むのがベストです。
コンプレッサーの不具合
エアコンガスを吸入圧縮しガスを送り出すコンプレッサーは、負荷が大きく、使っているうちに不具合が生じやすい装置です。
コンプレッサーに不具合が起きると、いくらエアコンガスやオイルの量が十分でも、エアコンが効かなくなります。この場合、カーエアコンのコンプレッサーの交換が必要です。
コンプレッサーの交換費用は、車種にもよりますが低くても5万円程度、時には10万円を超えることも。また、コンプレッサー交換の際はエキスパンションバルブ(気化器)、ドライヤー(水分吸収材)の交換も合わせて行いたいところです。 コンプレッサーの故障原因の一つがエアコンガスの漏れの放置なので、修理費が高くつく前に早めに対処しておきたいですね。
エアコンガスの量を自分で調べる方法とは
時間経過とともに自然と減っていくエアコンガスですが、今どのくらいの量が入っているのか自分で確かめてみたいという人もいると思います。
エアコンガスの基準量は車によって異なるため、車中に貼られているシールでガスの種類と基準量をあらかじめ確認しておきましょう。たとえば、基準量が「320g±30g」と記載されていた場合、その範囲以上でも以下でも冷房の効きが悪くなるので注意が必要です。
カーエアコン動作時のエアコンガス圧の計測には、以下のようなゲージマニホールドという圧力計を用います。
マニホールドゲージを使えば、エアコン動作時の高圧圧力と低圧圧力が適正な範囲内かどうかを確認できます。車によっても変わりますが、参考値は以下の通りです。
<エンジン始動直後のクールダウン開始時点>
高圧圧力;2~2.2MPa(20~22kgf/cm2)
低圧圧力;0.1~0.3MPa(1~3kgf/cm2)
<安定時(エンジン回転数1500~2000rpmで一定)>
高圧圧力;1.3~1.6MPa(13~16kgf/cm2)
低圧圧力;0.18~0.22MPa(1.8~2.2kgf/cm2)
この参考値をもとに「高圧・低圧とも低い場合」と「高圧・低圧とも高い場合」、そして「高圧・低圧どちらかが高く、どちらかが低い場合」のパターンで切り分けます。
高圧・低圧ともに低い場合:エアコンガス漏れ
高圧・低圧とも高い場合:エアコンガスの入れすぎ、あるいはコンデンサの不良
高圧が低い・低圧が高い:コンプレッサーの異常
高圧が高い・
低圧が低い:キャピラリーチューブ(膨張弁)が詰まっている可能性あり
このなかで、素人がDIYで対応できる可能性があるのは「高圧・低圧ともに低い=エアコンガス漏れ」のみです。ただし、複合要因ということも考えられるため、最終的にはプロにチェックをお願いしてもらう方が安全です。
エアコンガスを自分で補充したいなら?
それでも、エアコンガスを補充するだけなら自分でやってみたい!という人のために、実際にDIYでガス補充を行う際の手順について解説します。 圧力がかかっている部分を扱うため、操作手順を間違えるとケガをするリスクがあります。あらかじめ注意しておきましょう。
必要なアイテムを揃えよう
エアコンガスを補充するために必ず必要なのが、「エアコンガス」と「補充用の専用ホース」です。
エアコンガスの種類は、車の製造年代や車種に応じて、「R12」「R134」「R1234yf」の3種類があります。最も新しい規格が「R1234yf」です。
「R12」はすでに製造中止されているため、自宅で作業をしたい場合は基本、「R134」もしくは「R1234yf」のエアコンガスを使っている車が対象となります。
車中に貼られているシールに記載されているガスの種類を必ず守りましょう。たとえば「R1234yf」のガスを使っている車に「R134 」を入れると、トラブルの原因になります。
補充に必要な量は車種にもよりますが、通常1缶(200g)~2缶(400g)ほど。ただし、エアコンガスを入れすぎないようにするため、エアコンガスの圧力をきちんと計測しましょう。
圧力を確認しながら補充するためには、既にご紹介したマニホールドゲージも用意しておきたいところ。そのため、エアコンガスを補充するための専用ホース「ガスチャージホース」は、圧力計付のものが便利です。
エアコンガス補充の手順
エアコンガスを補充するためには、以下の手順で行います。
- クーラーガス缶にバルブを取り付ける
- ホースを車の低圧側ポートにセットする
- ホース内に残っている空気を車両側のガス圧を利用して抜く
- 車のエアコンを最低温度、最大風量に設定後、エンジンの回転数を1,500回転から2,000回転にして、ゲージマニホールドの圧力計をチェック
- ガス缶のフタに穴を開けて、エアコンガスを注入
それぞれの手順を見ていきましょう。 動画で見たほうが分かりやすいので、迷ったときのためにクラシックカー専門店「Classic Car Studio JP」さんの動画も合わせて紹介します。プロの目線から、エアコンガスの補充について非常に詳しく解説されています。
1.クーラーガス缶をバルブに取り付ける
まずは、ガスチャージホースにガス缶を取り付けるところからスタートです。サービス缶バルブのネジを左に回し、針がガス缶のパッキンに穴を開けないよう、一番上に上げておきます。
ガス缶のネジ部分は樹脂でコーティングされていますが、そのままサービス缶バルブに接続してしまって問題ありません。
2.ホースをクルマの低圧側ポートにセットする
ガスチャージホースを車両側パイプの低圧ポート(Lの表示が目印)につなぎましょう。クイックカプラーの外側をスライドさせた状態でポートに取り付けるのがポイントです。
クイックカプラーの取り付けは、車によっては、かなり力を必要とすることもあります。力を入れて、しっかり強く差し込みましょう。
3.ホース内に残っている空気を抜く
低圧ポートとチャージホースを接続し、ホース内に残っている空気を車両側のガス圧を利用して抜く。そのままガス缶に穴を開けてしまうと、空気が車の中に混入してしまうため、先に空気抜きが必要です。
空気抜きの方法はシンプルで、ガス缶を少し緩めるだけ。そうすると、車側からの圧力で自動的に空気が押し出されます。あまり長い時間緩めると、車側のエアコンガスが漏れてしまうので、空気抜きは一瞬で問題ありません。
4.車のエアコンを回して、ゲージをチェック
エアコンガスを注入する前に、いったん車のエンジンをかけて、エアコンを最低温度、最大風量に設定します。これは、稼働時の圧力をきちんと確認するためです。
コンプレッサーが常に作動するように、窓やドアなども全開にしておきましょう。
稼働時の圧力については、ガスチャージホースに付いているゲージでチェックする方法もありますが、マニホールドゲージを使うとより高度な診断ができるのでおすすめです。
5.ガス缶のフタに穴を開けて、エアコンガスを注入
さて、いよいよエアコンガスを注入しましょう。サービス缶バルブのネジを締め込み、針を差し込んで、ガス缶のフタに穴を開けます。針で穴がふさがった状態だと注入できないため、フタに穴が開いたら、サービス缶バルブのねじを少し緩めるのがポイント。
カーエアコンのコンプレッサーの吸引力でサービス缶からガスが入っていきます。また、手で温めたり振ったりすると、さらにガスが入りやすくなります。
この時、ガス缶の圧力がどんどん下がって低温になるため、必ずグローブを着用しましょう。
適正圧力になればガスチャージは完了です。
適正圧力の求め方
[低圧側]
外気温(例:20度) / 250 + 0.08 = 0.16MPa
[高圧側]
外気温(例:20度) / 20 + 0.2 = 1.2MPa
※あくまでも目安となる算出方法のため、各車両のサービスマニュアルに沿ってご判断ください
【結論】エアコンガスは自分で補充すべき?プロに頼むべき?
【結論】エアコンガスは自分で補充すべき?
プロに頼むべき?
結局のところ、エアコンガスは自分で補充すべきなのか、それともプロに頼むべきなのか、DIYの手順を理解できたとしても判断に迷うかもしれません。 色々と調べた結果、結論を先にまとめると、「原則、プロに相談すべき」ということがわかりました。その理由として、以下のような内容が挙げられます。
- エアコンの効きが悪い原因は複合的なこともあり、プロでないと判断がしづらい
- エアコンガスを適正量入れるための設備を整え、かつ正確に作業するには時間もお金もかかる
- エアコンガスの補充以外の作業が必要になったときに、自宅環境では対処しきれない
プロの視点、リークラボ・ジャパン様から学んだ最近のカーエアコン事情
プロの視点、リークラボ・ジャパン様から
学んだ最近のカーエアコン事情
あらゆる「漏れ」を解決するプロ、リークラボ・ジャパン様に、専門家としての見解をお伺いしました。
―エアコンガスの補充を自分で行うというのは、プロの目から見てどうでしょうか?
エアコンが効かない要因は様々なので、ガス漏れ以外の要因だといくらガスを補充しても意味がありません。間違った対処をしてしまうと、コンプレッサーなどの部品故障につながることもあり、修理費用で余計なお金がかかってしまいます。
そのため、基本的には自動車整備のプロに見てもらうというのが大前提として考えておいて頂ければと思います。目安として、外気温とエアコンの風の温度を比べてみて、温度差が10度もない場合は、ぜひ整備工場で相談することをおすすめします。
―プロに見てもらうのがやっぱり前提なんですね。技術的な面以外でも、プロに相談するメリットってあるんですか?
たとえばエアコンガスを入れすぎたときや全部入れ替えたいときは、プロ用の専用機材ではないと対応できません。カーエアコンに使っているガスはフロンが含まれているため、環境問題の観点から、法律で規制されています。
フロンガスを大気中にみだりに放出すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。法律面と安全性の面からプロにお任せしたほうがいいですね。
エアコンガスもどんどん改良されているので、最も環境負荷が少ない「R1234yf」がこれから主流になっていくでしょう。すでに製造中止された「R12」はもちろん。「R134」もこれからだんだん減っていくはずです。
「R1234yf」は「R134」と比べると以下の通り、かなり高価です。
R134:1缶500円程度
R1234yf:1缶1万円程度
なのでなるべく「R134」をDIYで補充したいという気持ちは分からなくもないのですが、環境にもよくないですし、カーエアコンの不具合の原因にもつながります。
そのため、基本はプロにお願いすること、そして規格通りのエアコンガスを使って頂くのがおすすめです。
―整備工場に何度も足を運ぶのも大変なので、できればカーエアコンを長持ちさせるようなコツを知りたいです。
簡単に取り組めることの一つとして、夏場以外も車のエアコンを定期的に使うのがおすすめです。というのも、エアコンガスやオイルは循環し続けている状態がベストなので、しばらく使っていないとどうしても調子が悪くなるからです。月1回でいいので、秋冬などもエアコンを使っていただきたいですね。
あと、たとえ新車で購入したとしても、時間が経てばガスのゴムホースやOリングなどのゴム材は劣化していきますし、年々ガス量も少しずつ漏れてしまいます。
そのため、車検ごとにエアコンガスのクリーニングを行って、きれいな状態を維持しながら適正量を保つようにすると、エアコンの寿命も長持ちします。
特に、中古車を購入された場合は、ぜひ早い段階でエアコンガスのクリーニングを試してみて頂ければと思います。
―エアコンガスが漏れているかも?というときに、もっと簡単に処置できるような方法はありませんか?
漏れ止めが入っている添加剤などを使うことで、応急処置は可能です。たとえば、リークラボ・ジャパンのDr.Leakであれば、A/C漏れ止め剤・蛍光剤・冷凍機油(B39)・R134a全てが含まれており、漏れ止めと漏れの検知をどちらも行うことができます。
微小なエアコンガス漏れであれば非常に効果的です。
作業時間はわずか10分程度で、手間もかかりません。ハイブリッド車や電気自動車など、POEオイルを利用した車両にはDr.LeakPOEがおすすめです。
ただし、Dr.Leakにもオイルが入っているため、入れすぎてしまうと逆にエアコンの効きを悪くしてしまいます。過充填には注意いただければと思います。
カーエアコンの仕組みをきちんと理解した上で、ぜひDr.Leakをご活用頂きたいですね。
まとめ
これから夏が近づくにつれて、気になるカーエアコンのメンテナンス。今回は、リークラボ・ジャパン様にお話を伺い、詳しい情報をまとめました。
基本的にはプロにお任せするにしても、カーエアコンの仕組みや故障しやすいポイントをきちんと理解した上で、愛車をより快適に使いこなしたいですよね。
今回の記事を参考にメンテナンスをしっかり行ったうえで、ぜひ冷房の効いた車でドライブを楽しんでくださいね。
取材協力先:株式会社リークラボ・ジャパン
自動車や冷凍空調機器、工作機械、重機建機、住宅設備などあらゆる産業のオイル・エアー・各種ガス・水といった様々なリーク(漏れ)を研究し、最適な解決策を世界へと提案するプロフェッショナル企業。
公式ホームページ:https://leaklab-japan.jp/